2013年5月12日日曜日

顧客満足度が上がれば売り上げも増えるか?

「顧客満足度が上がれば売り上げも増える」のウソ:日経ビジネスオンライン 

この記事を読むと、「顧客満足度」とはすぐれて要素還元主義的な方法論だったのだということがよくわかる。


「満足」という心の状態が、そこではいくつかの静的な要素に分解される。料理の味、提供されるスピード、接客態度、価格、店内の清潔さ…。

要素還元主義の常で、そこでいつも忘れ去られるのは、それらの要素を全部足し合わせた時に元の「満足」が再現できるのかということだ。


機械を分解してもう一度組み立て直したらネジが一本余った、なんて話なら笑えるが、この話はどちらかと言うと、生き物をパーツに分解してもう一度合体したのに生き返らない、という話に近い。


世の中のほとんどのケースで「全体は部分の総和ではない」。

顧客満足度について言うなら、多少店員の応対が悪かろうが、料理が出てくるのが遅かろうが、味や値段や、店の立地条件などがそれらを補うなら、顧客がまた来店する可能性は十分にある。


そこには要素還元主義のもうひとつの問題も見え隠れしている。

顧客満足度をいくつかの要素に分解すると、人は何故かそのすべてのスコアを上げなければいけないと思いがちだ。しかし、実際にはスコアの合計が100点である必要はない(料理の質と価格が相反的であることを考えても、現実の経営で100点はそもそもムリだ)。

なにか顧客の行動を促す要素(それは味でも接客でもなく、たまたまその店がいつもの帰り道にあるというだけのこともあるのだが)があるならば、残りの要素はそれほど重要ではなかったりする。その時の顧客の心理状態を「満足」とは呼ばないかもしれないが、経営にとってはそれで十分なのだ。


問題は「満足」という静的な状態よりも、何が顧客の行動を促すかという動的な側面の方なのかもしれない。記事の中で紹介されているNPS(誰かに奨めたいと思う人と奨めたくないと思う人の差)という指標が捉えようとしているのは、まさにそこのところだ。

「この店にまた行こう」という心の動きは、「あの店いいよ」と誰かに薦めたくなる心の動きと似ている。対象が他人であるか自分であるかの違いだけで、どちらも行動に直接結びつく心理だからだ。


考えてみれば、顧客満足の教科書に出てくる事例はどれも(ノードストロームであれディズニーであれ)そうした動的な心の状態のことを語っていたのではないだろうか。

それを「顧客満足度」という静的な指標に置き換え、さらにいくつもの要素に分解したときから、そこにあったはずの生き生きとした何かはすでに失われていたのかもしれない。