2003年12月21日日曜日

専門店の可能性

専門店の潮流

『大型郊外SCの光と影』で「日本の専門店はまだまだ層が浅い」と述べた。今回はその専門店について、その可能性を考察することとしてみたい。

専門店と言ってもいろいろある。まずはその整理からはじめよう。

第一に、文房具屋、靴屋、写真屋といった「~屋」で表現される昔ながらの業種別専門店がある。自動車販売店や家電店のようなメーカーの系列販売店もこの業種別専門店だ。最近で言えばパソコンショップや携帯ショップもこの分類にはいるだろう。

第二に、たとえば同じ衣料品でも紳士服(またはスーツ)、カジュアルといった使用シーン別に細分化された専門店がある。ユニクロや紳士服のアオキはここにはいる。

第三に、最近増えてきたシャツ&ネクタイ専門ショップ(ex.シャツ工房)やソックス専門ショップ(ex.そっくすらんどサンタ)のように、従来の分類を商品別に細分化した単品型専門店がある。

そして最後に、トイザらスのような、あるテーマに基づいて従来のカテゴリを横断的に編集するテーマ型専門店がある。

最初のタイプ(業種別専門店)はスーパーやGMSなどのいわゆる業態店の登場とともに衰退がはじまり、今や(パソコンショップや携帯ショップを除いて)青息吐息の状態だ。メーカー系でも自動車販売店はまだまだ健在だが、家電店はすでにかなり苦しい状態にある。一方、二番目のタイプは、歴史は古いが、新旧交代を繰り返しながらジャンルとしてはまだまだ現役で頑張っているという感じだ。

現在注目すべきは、やはり三番目の単品型専門店と四番目のテーマ型専門店だろう。以下、順番に見ていこう。

単品型専門店の可能性

単品型専門店の可能性とは何だろうか。

それは、分野を思い切って絞りこむことによって逆に分野内での品ぞろえを厚くし、多様な選択肢を求めるお客のニースに応えられることだ。加えて、従来は品揃えのうえで不利であった小規模店であっても、十分な競争力を持てるのも単品型専門店の強みだ。

たとえば、本屋について考えてみよう。

ぼくは本屋が好きで、歩いていて本屋を見つけると無条件で入ってしまう。行きつけの店だろうが、はじめての店だろうがまったく関係ない。買いたい本があるかどうかも関係ない。ひとつの通りに複数の本屋があったりすると、全部はいってしまうのでちっとも前に進まなかったりする。

しかし最近は商店街でもショッピングセンターでも中途半端な本屋だと、一瞬入りそうになるものの入り口のところで思いとどまるようになってきた。

これだけ出版物が多いと(今一体文庫って何種類あるんだろう)、小さな本屋ではまったく話にならなくなってくる。広く浅く揃えた、と言えばまだ聞こえはいいが、要するにまんべんなく欠品があるということなのだ。そのことに気づいてから本屋に入る回数が減った。

だが、「まんべんなく欠品がある」というのは小規模店の宿命なのだろうか。いや、単品型専門店ならその宿命を乗り越えることができる。

文庫も単行本も扱わない、雑誌だけの書店を考えてみよう。その代わり、雑誌なら何でも揃う店だ。これなら規模は小さくても十分やっていける。むしろ、やたらと大きな書店よりも探すものが見つけやすくて、買い物には便利かもしれない。

駅前のようにたくさんの人が集まる場所にある小さな書店を、「雑誌専門書店」としてネットワークしてみよう。駅のキオスクと競合する部分が出てくるが、売れ筋に限定せず扱う雑誌の幅を広げることによって、差別化は可能だ。

同じように、文庫の新刊だけを扱う「新刊文庫専門書店」なんていうものも考えられる。新刊しか置かないが、その代わりすべての文庫を揃えるのだ。

雑誌も文庫も単行本も中途半端に置いてある総合書店よりも、こうした「単品型書店」の方がよっぽど客にも喜んでもらえると思うがどうだろうか。

テーマ型専門店が提案するもの

テーマ型専門店の代表格トイザらスのオリジナリティとは何か。

トイザらスは決しておもちゃ屋ではない。トイザらスはもちろんおもちゃを売っているが、それだけではない。スポーツ用品や学用品、ピクニック用品、お菓子、ベビー用品まで売っている。トイザらスは「おもちゃ」ではなく、「育児」をテーマとしたお店なのだ。しかも育児に関する必需品を売るだけではなく、育児をいかに楽しくするかを提案する「育児専門店」なのである。

「おもちゃ屋」さんに大人が行ってもあまり楽しくはない。おもちゃ屋は子供のための店であって、大人のための店ではないからだ。つまり、おもちゃを必要としているのは子供であって、大人の関心の対象は「育児」だからだ。そこには大きな違いがある。

どちらかというとおもちゃ屋とは、親がしかたなしについていって、どのおもちゃがいいかを子供に決めさせるための場所だ。または少し大きくなった子供が自分でお金を持って、自分でおもちゃを買いに来る場所なのだ。

しかし「育児」をテーマとするトイザらスは、「育児」という親の最大関心事項に対して解決策を提供する。(大人の)客が集まるのも当然というものだ。ここに「テーマ型専門店」の可能性がある。


セブンイレブンもトイザらスと同じテーマ型専門店と捉えられる。それではセブンイレブンのテーマとは何か。それは、「歩いて5分の距離で買いたい商品」(流通コンサルタント島田陽介氏による定義)だ。セブンイレブンとはこのテーマに沿って、横断的に品ぞろえした専門店なのだ。

100円ショップも同じくテーマ型専門店と言える。100円ショップとは要するに「100円で買えるもの」をテーマに横断的に品揃えした店だ。そこでは100円で買える生活必需品が揃うとともに、100円で生活を豊かにする商品も手にはいる。100円というところがミソで、簡単に買えるだけに個々の商品を組み合わせることで、いろいろな工夫が試行錯誤できる。「100円で生活を豊かに彩るための専門店」というわけだ。

同様にキッチンをテーマとした店も考えられる。普通にキッチン用品の店を考えると、その扱い商品は鍋やフライパン、食器あたりまでがせいぜいだろうが、たとえば「コンプリートキッチン」というアメリカのショップでは、それに加えてさまざまな調理補助グッズ(ステーキの温度を調べる道具やゆで卵の黄身が偏らないようにする道具など)、お菓子を飾るための着色剤、エプロン、テーブルクロスのインチ売りや、はてはレシピを書き留めて冷蔵庫かどこかに貼るための付箋まで売っている。それは「キッチン」という場をテーマに、そこをどうやって豊かな場所にするかを提案する店なのだ。

テーマ型専門店のアイデア

こうした視点で行けばまだまだ魅力的な専門店はたくさん開発できそうな気がする。たとえばこんなテーマ型専門店はどうだろうか。

ビジネスグッズの専門店。扱う商品は、まずアパレル系のスーツ、シャツ、ネクタイ。それにビジネスシューズ、ビジネスバック、ベルトに財布、名刺ケースなど。ここまでは当たり前だが、これだけでもしっかり品揃えされた店はそうそうないのが実際だ。次に文具系の万年筆やシステム手帳など。また情報通信系グッズも揃えたい。まず電子手帳、電子辞書、PDA。場所をとるPCはモバイル系に絞りこむ。携帯電話、通信用PHSカードも置きたいところだ。

差がつくのは小物系だ。ビジネスパーソンの日常を細かく見てみよう。たとえばプレゼンテーションで使う差し棒やレーザーポインタ、通勤電車で英語リスニングテープを聞く人のためのウォークマンやMP3プレイヤーなど。

ターゲットは20-40代のビジネスマン(女性もターゲットとするかどうか検討の余地がある。女性用のビジネス用品が一堂に揃う場所は男性用以上に見つからないだろうから)。来店頻度としては月1回くらいだろうか。従って、ここではポストイットのような文具サプライ系、コピーやプリントアウトなどのサービスを扱うのは好ましくない、ということになる。それらは来店頻度がもっと高い商品(サービス)だし、来店頻度の異なる商品を組み合わせても相乗効果は出ないうえ、コンセプトもぼけてしまうからだ。

次に価格帯だが、こういう店にわざわざ来る人は(自分の服を自分で買わない男性が多い日本ではなおさら)持ち物にこだわりのある人に違いないから、スーツにせよバッグにせよあまり安っぽい商品を置くわけにはいかないだろう。とは言え、「男のこだわりショップ」みたいにやたら高級な店にもしたくないところだ。トイザらスにしてもセブンイレブンにしてもコンプリートキッチンにしても、決して価格帯は高くない。むしろトイザらスなどは大量販売による低価格を売りものにしているほどだ。生活を豊かに彩るためには豪華1点買いではダメで、複数の商品を組み合わせる必要がある。だからこそ安く手にはいるようにしてあげなければならないのだ。

こうして考えてみると、この「ビジネスグッズ専門店」はおおよそ紳士服店と文具店、電気店またはパソコンショップあたりをリプレースするような格好になる。ただ忘れてはいけないのは、単にそれらの店の商品を寄せ集めただけではいけないということだ。そこにプラスして必ず生活を豊かにする提案があること。生活を豊かにするとは、必ずしもいいモノを揃えるとか、ブランドものを売るということではない。アイデアに満ちていること、細かいところの気配りが利いていること、発見する楽しさがあることだ。

単品型であれテーマ型であれ、専門店のアイデアとは、結局「編集」のアイデアということになる。何と何をどう組み合わせるか、または何を切り取るか。工夫しだいでまだまだ多様な専門店が生まれてくる可能性があるように思うが、どうだろうか。