2010年10月9日土曜日

個客代理人9--もう広告もプロモーションもいらない?

9.個客代理人

たとえば、クルマを買うときぼくたちは新車ディーラーに行く。中古車でよければ中古車ディーラーに行くし、修理や整備が必要なら修理工場に持っていく。一時的にクルマが必要になればレンタカーを借りる。

それぞれの業態がみな(空港に入っているさまざまな会社と同様)独立してビジネスを営んでいるので、ぼくたちはそれぞれ異なる自分の事情に沿って、自分で最適なサービスをひとつひとつ見つけなければならない。

ぼくたちが求めているのは、実は「短距離の移動手段としてのクルマをどうするか」という問題に対するソリューションなのだが、誰もその問いの全体像を見通して応えようとはしてくれない。


新車の購入に限って言えば、もっと話は複雑になる。


トヨタのディーラーにはトヨタ車しか置いてない。日産のディーラーでは日産車しか買うことはできない。それだけではない。多くのメーカーはチャネル別販売をやめてしまったが、トヨタはレクサスも含めてまだ5つのチャネルを維持している。それぞれのチャネルは扱い車種が異なるので、トヨタのディーラーだからと言ってすべてのトヨタ車が置いてあるわけではない。

だから、1台の新車を買うだけでも、あのクルマはあちらのディーラー、このクルマはこちらのディーラーという具合に試乗して回り、めぼしいクルマを見つけたら今度はあちらのディーラーで値引交渉をし、こちらのディーラーからはもっと有利な条件を引き出し、という訳で延々つづく厄介なプロセスを踏まなければならない。

かつてのように、クルマを所有することがステイタスであり、所有すること自体に喜びがあった時代にはそれでもよかっただろう。その時代には、面倒な購入のプロセスも含めて「買う」という行為そのものが満足の一部を形成していた可能性もある。だが、所有することよりも使うことの方に重心が移ってくれば、購入(導入)のプロセスそのものには意味がなくなり、それを合理化したいというニーズが出てくるはずだ。


今ここに、自動車の購入にまつわる一切合切を代行してくれるサービスがあったとしたらどうだろうか。


ぼくたちはただ彼らにどんなクルマが欲しいのかを伝えればいい。もしくは、ぼくたちがクルマを必要としている状況を伝えるだけでもいい。

たとえば家族は何人か、主にどんな用途に使うか、大きな荷物を積むのか、走る距離は?乗る頻度はどれくらいか…。

個客代理人がそれらの情報を元に最適な車種を選び、値引価格も含めていくつかの候補を提示してくれる。ぼくたちは個客代理人のオフィスか自宅のソファに座って、リストから選択するだけでいい。あとは彼らが購入に関するすべての面倒を代行してくれるというわけだ。

車名やメーカーにはこだわらない、何であれ用途を満たすクルマが手に入ればそれでいいというユーザーにとっては、クルマの購入に関わる膨大な手間を軽減してくれるこのサービスは非常に有益ではないだろうか。


そのサービスを「個々のユーザーの便益を代理してくれる」という意味で、「個客代理人」と呼ぶことにしよう。

販売代理店がメーカーの販売行為を代理するように、これは顧客の購買行為を代理する「購買代理人」だ。そして、これはすべての顧客に均一化されたサービスを提供するのでなく、個々の顧客ごとに、それぞれのニーズに応じてカスタマイズされたサービスを提供するという意味で「個」客代理人なのだ。


これだけでも、メーカー中心に組み立てられた現在の自動車業界のサービスレベルを顧客のニーズに近づけるには十分だろう。また、「リーン・エンタープライズ」の観点から見ても、このサービスは「顧客にとっての最終的な価値を見通す」という要件を備えている。

しかし、所有価値よりも使用価値に重点を置いて考えるなら、決してサービスの対象を「購入」に限定する必要はない。

つまり、クルマを「購入」するための便宜を図るのではなく、クルマを「使用」するための最適な方法を提案する、という風にこのサービスを位置づけたらどうだろうか。新車や中古車の購入、レンタカーやカーリース、カーシェアリングの契約、それらはいずれもクルマを使用するための手段にすぎない。それらのニーズをすべて集約し、自動車に関するひとつの統合的なサービスにまとめあげてみたらどうだろうか(このアイデアはウォーマックとジョーンズの前掲書--「リーン・シンキング 改訂増補版」--に基づく)。


それは自動車ビジネスのかたちを大きく変えることになるだろう。

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