8.所有価値から使用価値へ
カーシェアに節約の道 維持管理コストを軽く
会員同士が自動車を共有して自家用車のように使うカーシェアリング。節約志向が続く中で、低コストに着目した利用者が増えている。低燃費車の購入を促すエコカー補助金制度の終了もあり、今後も利用は拡大するとみられる。・・・(中略)・・・
「カーシェアリングは早朝や深夜でも自家用車感覚で利用できる」。こう話す東京都在住の女性会社員(28)は、3カ月前まで自家用車を所有していた。駐車場代など維持費用の負担の重さに耐えかねて手放し、自宅の近所にあるカーシェアリングを使い始めた。「利用料金にはガソリン代なども含まれており、使い勝手もよい」と満足げだ。
節約を目的にマイカーからカーシェアリングに切り替える人が増えている。交通エコロジー・モビリティ財団(東京・千代田)の調査によると、2010年1月時点のカーシェアリング会員数は1万6177人で、前年比2.5倍に拡大した。
需要拡大を受け車両数も同2.3倍の1300台に急増。その後も増加基調は続き、現時点で主な運営会社だけでも会員数、車両数とも既に1月時点を大幅に上回っている。
(日本経済新聞 2010/9/21)
新車が売れない一方で、こうしたサービスが広がりつつある。日経MJ編集委員の石鍋仁美は「消費の対象がモノからサービスへとシフトしつつある」と言い、こうした状況を「消費のサービス化」と呼ぶ(「石鍋仁美のマーケティングの『非常識』」日経MJ 2009年7月10日)。
自動車に限らず、長らくビジネスの基本は「販売」だった。メーカーがレンタルやリースを扱ったとしても、事業としてはしょせん傍流に過ぎなかった場合が多いのではないだろうか。受け止める消費者の側でも、商品を「自分のものにしたい(=所有価値)」思いが、「使えればいい(=使用価値)」思いを上回る時代が長くつづいた。
だが、モノ余りの今、「使用価値」が「所有価値」を上回ろうとしている。持つことよりも使うことの方に重点が置かれるようになりつつある。
そうした流れの中では、新品と中古の境界線も曖昧になっていく。「使えればいい」と考えるなら、購入とレンタル・リースの間はもちろん、新品と中古との間にも本質的な違いはないからだ。石鍋によれば、最近ある有名な文芸評論家が蔵書の相当量を売却したという。ネット古書店が充実したおかげで「必要ならいつでも買えると気づいたから」だそうだ。
そこにひとつのビジネスチャンスがある。
「販売→所有」の関係は一回限りのものとなりがちだが、所有にこだわらないならその関係は継続的なものとなる可能性を秘めているからだ。